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広島高等裁判所岡山支部 昭和62年(ラ)40号 決定 1988年1月14日

抗告人 倉敷金融株式会社

右代表者代表取締役 大野武彦

相手方 福原秀樹

第三債務者 セトウチ化工株式会社

右代表者代表取締役 北浦一郎

主文

原決定中、抗告人の申立を一部却下した部分を取り消し、同決定別紙請求債権目録記載中の「昭和六二年一〇月一五日まで」とあるのを「支払いずみに至るまで」と変更する。

抗告費用は相手方の負担とする。

理由

一  抗告人は主文同旨の裁判を求め、その理由は別紙「抗告の理由」(写)のとおりである。

二  当裁判所の判断

本件記録によれば、抗告人は、請求債権として「倉敷簡易裁判所昭和五九年(ハ)第一八号の執行力ある判決正本に基づく金員五〇万円及びこれに対する昭和六〇年三月一六日から支払いずみに至るまで年三割六分の割合による金員」と表示して(他に執行費用六八九〇円)、本件債権差押命令を申し立てたところ、原執行裁判所は、債権執行にあっては申立時までの遅延損害金に限って強制執行の開始を認めるのが、民事執行法の趣旨であるとして、右遅延損害金について、申立日(昭和六二年一〇月一五日)までの限度でこれを認め、その余の部分の申立を却下したことが明らかである。

しかしながら、元本債権に附帯する履行期未到来の遅延損害金(強制執行申立時後の遅延損害金)の請求についても強制執行の開始を求め得ないと解すべき根拠は、法令上これを見出すことができない。

すなわち、民事執行法三〇条一項が確定期限付の債権につき期限の到来後に限って強制執行の開始を認めるとしているのは、基本たる請求についての要請であって、附帯の請求については履行期未到来のものも含めて強制執行を開始し得ると解するのが、附帯請求の性質にも副い、また、執行経済にも資すると考えられるところである。

なお、民事執行規則一四五条、六〇条が配当手続において強制執行申立後の附帯請求の補充を認めていることも、履行期未到来の附帯請求につき強制執行の開始を許さない趣旨には解されない。

確かに、債権執行においては、請求の満足が差押債権者による取立てによってなされるのが一般であり、その場合、特に差押債権が給料等の継続的給付を内容とする債権であるような場合には、請求債権額が確定していることが、実務上差押債権者と第三債務者間における取立て及び弁済充当を円滑にすることになると考えられ、原執行裁判所のような扱いも実際上の要請としては首肯できなくもないが、そのような扱いによると、差押債権者に対し、損害金に先んじての元本への充当という不合理な事態や申立日以降の損害金についての再執行申立てという無駄な負担(但し、配当手続による場合は、前記のとおり、附帯請求の追加補充が可能ではある。)を生ぜしめることにもなるのであって、右のような実際上の要請からして債権差押命令申立中、強制執行申立時後の期限未到来の損害金を請求する部分の申立てを却下すべきものと解すべき論拠とは到底なし難いところである。

以上のとおりであって、本件債権差押命令の申立ては、請求債権の全部についてこれを認むべきところ、その一部を却下した原決定は不当であり本件抗告は理由がある。

よって、原決定中、申立の一部を却下した部分を取り消し、これを右のとおりに変更することとし、抗告費用は相手方に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 渡辺伸平 裁判官 相良甲子彦 廣田聰)

<以下省略>

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